日本、劇的逆転勝利! スウェーデン下しトップディビジョン残留確定~4/9IIHF女子アイスホッケー世界選手権トップディビジョン 対スウェーデン戦レポート
Text&Phot by Tomoki Sekiya
日本 3(0-1,1-0,2-1)2 スウェーデン
シュート数:日本15(2-9,7-14,6-7)30 スウェーデン
得点経過及びアシスト:
第1ピリオド 2:36 スウェーデン1-0 G27 NORDIN A16 WINBERG 20RASK
第2ピリオド 16:02 日本 1-1 G11米山 A12大澤
第3ピリオド 7:10 スウェーデン2-1 G4ENGSTROM A26 OLSSON
11:10 日本 2-2 G16 志賀(紅)A4床(亜) 21久保
18:45 日本 3-2 G4 床(亜) A14床(秦)21久保
→グループB通算:日本2勝1敗 勝点⑥ スウェーデン1勝3敗(うちPS敗1)勝点④
■重苦しい展開を打ち破った、日本が誇る最高のコンビネーション
第2ピリオド16:02分ことだった。
パックを持ってリンク左サイドのボード際を、滑らかなスケーティングで12大澤ちほがパックを持って攻め上がった。相手のマークを振り切るやいなや狙い澄ましたパスをゴール前に送る。
そのパックは、ゴール前で待っていた10米山知奈のスティックブレードに吸い付くように引き寄せられ、パシッと乾いた音を立ててゴールへと送り込まれた。
大澤が送ったパスはタイミング、角度、スピードとも完璧。そして受ける米山の相手を振り切る動き、パスを受ける位置も完璧。
中高校生の時から何度も見てきた、最高のコンビによる完璧なコンビネーションで日本は1-1の同点に遂に追いつく。
ゴールが決まった瞬間、日本ベンチは全員が両手を突き上げて2人を祝福した。
絶対に避けたい、と誰もが思っていた開始直後での失点から33分を過ぎて日本はようやく追いつき、反撃が始まった。
■マイナス0.5秒。幻のゴール
スウェーデンは開始直後に自陣からの展開でFW3人対DF2人の状況を作り、日本GK1藤本那菜の守るゴールを陥れていた。
そのパスからゴールまでに至る流れはさすがの動きで、スウェーデン選手の持つ技術が遺憾なく発揮されていた。その後もスピードある動きでペースはスウェーデンに傾いていたが、米山のゴールからは日本ペースに試合が一気にひっくり返った。
スウエーデン選手の動きが落ち、逆に日本はリンクを縦横に駆け回って相手からパックを奪い取るシーンもしばしば。ゴールへのラッシュを繰り返し、相手GKを慌てさせた。
スウエーデン選手の動きに、焦りや不安が見て取れるようになったピリオド終盤には、左サイドのフェイスオフからDFへと繋ぎ、2小池詩織から21久保英恵、そしてゴール前の米山へとパスがつながり、米山が身体を反転させながらシュート。これがゴール左ポスト内側へと入ったように見えたが、ゴールラインをパックが通過した時は、惜しくもピリオド終了を知らせるブザーの0.5秒後だった。
日本選手は頭上のビジョン映像を見上げながら審判の判定を待つこととなったが、結果はゴールとは認められず。米山のこの日2点目は幻に。しかし、日本らしさが随所に発揮されたピリオド終盤に、逆転への期待は膨らんだ。
■膠着状態から、先に点を取ったのはスウェーデン
しかし、3分ほどかかったこのゴールジャッジの間に、スウェーデンはすでにドレッシングルームに引き上げていた。ピリオド間の休憩は16分取られていたが、スウェーデンは3分余計に対策を取る時間を得ていたことになる。
選手のメンタルにも翁影響があったに違いない。スウエーデンは第3ピリオドに入ると、前ピリオド終盤のバタバタしていた部分を見事に修正してきた。
7分過ぎに、スウェーデンはパスを繋いで日本のゾーンへと攻め込む。いったんは日本がパックを奪うも、ゴール裏でのバトルでスウェーデンはパックを奪い返すと、左サイドからENGSTROMがゴール前へパックを送る。そこに詰めていた選手が半ば強引にスティックをねじ込むような形でつつくような混戦のなか、GK藤本(那)の抑えようとしたパックが身体に当たったのかゴールへと流れてしまい、押し込まれたような形でゴールを許す。
これで再び1-2とリードを奪われてしまった日本。
残り13分で、これを取り返す。日本がトップディビジョンに残るためにはそのミッションを遂行するほか無かった。
■今大会「最高」のパワープレーを2つ続ける
その後、両チームとも最後の力を振り絞ってパックを追うが、段々とスウェーデンの動きが鈍ってきたように見て取れる。ルーズパックに対する反応は日本の方が半歩早く、スウェーデン選手は身体を使って日本の選手を押さえ込むことが出来なくなる。
10分にスウェーデンがペナルティ。そこで得たこの試合3つ目のパワープレーで日本は最高の仕事をやってのけた。
日本は練習通りの形を作って攻め続けると、左ボード際の久保からゴール正面にいた4床亜矢可に渡り、床(亜)が遠目の位置から強烈なシュート。それをゴール前にいた16志賀紅音がスティックで合わせると、パックはゆっくりとしたスピードで氷の上を滑走、ゴール左ポスト内側へと滑り込むように入っていった。
同点に追いついた日本は試合残り2分にもパワープレーのチャンスを得る。スウェーデンベンチ前で争ってパックを奪った床(亜)に対して、後ろから頭を小突くようなプレー。スウェーデン選手はペナルティーではないことを盛んに主張するも、後頭部へ打撃が入っており明らかにペナルティーだった。
そこで得たパワープレーで先ほどの得点劇を上回る完璧な形が飛び出す。
速いパス回しでスウェーデン選手4人をゴール前に釘付けにする。そして床(亜)が⇒フェイスオフスポット付近から狙い澄ましてシュート。そのシュートはゴール左スミのスペースを完璧に捉えた。
試合残り1分15秒で飛び出したこのゴールで遂に日本は勝利をぐいっとたぐり寄せた。
■最後まで走りきった日本。ピョンチャンに続きスウェーデンを撃破
残り1分を切り、6人攻撃に出てきたスウェーデンを日本は身体を張って止め、相手ゾーンに押しとどめる。最後の20秒はスウェーデンに何度か至近距離からシュートを浴びるが、GK藤本(那)をはじめディフェンスの集中力は途切れることなく、パックを右サイドに大きく弾いたところで終了のブザーが鳴り響く。
激闘を制し、日本は3-2でスウエーデンに勝利。目標だったトップディビジョン残留を果たした。
勝利の瞬間、ベンチでも選手達が両手を点に突き上げ、肩を組み合って喜び合う。スタッフも輪になって飛び跳ねる。このシーンは日本アイスホッケーの歴史に残る映像となったことは間違いない。
日本は最後まで諦めず走りきるという姿勢を貫き、最後は疲れた相手を動きで上回って試合を勝利へと導いた。その気持ち、そして第3ピリオドまで走りきれる体力を厳しいトレーニングに耐えて積み上げてきたことがこの結果を呼んだ。その選手達のここまでの努力に大きな敬意を表するほかはない。本当に素晴らしかった。
■歴史上初となるトップディビジョン陥落となったスウェーデン
日本は平昌オリンピックの順位決定戦に続いてスウェーデンを撃破した。いっぽうスウェーデンは史上初めて、トップディビジョンから2部に相当するディビジョンIグループAへと降格することになる。
あるスウェーデンの記者は、1936年のベルリンオリンピックの男子サッカーで日本が優勝候補のスウェーデンに勝った試合を引き合いにだし、それ以来の悲劇だ、というくらいのニュアンスでスウェーデンの敗戦を嘆いていた。それほどこの試合はアイスホッケーの歴史に刻まれる1戦だった。
◎日本は準々決勝進出。グループA1位のアメリカと10年ぶりに公式戦で対戦。ロシアも0-10と一蹴された世界最強のチームに全力でぶつかる。
<飯塚監督インタビュー>
――勝った方が残留の大事な試合に勝ちました
常に先行されている時間が多くて、それでも選手は集中を切らさずに足を止めずに動いてくれました。必ず最後に自分たちのそれがアドバンテージになるとミーティングでも伝えていたので、ファイトしてくれて勝ってくれて、それが試合を制する要因になったと思います。
出来ればリーグトップで通過したかったのですが、世界はそんなに簡単では無いと言うことも思い知らされましたが、選手達の底力や成長力も感じることができましたし、最後は彼女たちを信じて送り出すだけだったので選手達に感謝しています。
――日本アイスホッケー界にとっても大きな勝利です
選手達もオリンピックに出続けてそこでプレーする事、活躍し続けることを使命に感じてくれているのですが、今日はそれをプレッシャーに感じず堂々とプレーしてくれました。日本の今後の為にも良い結果を出してくれたと思っています。