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【アイスホッケー日本代表応援特設】『必ずNHLまで上り詰める』その気持ちを貫けたことが財産です~平野裕志朗選手インタビュー


日本人2人目・FW初のAHLプレイヤー、平野裕志朗選手に聞く。

<Text & Photo by Tomoki Sekiya / アイスホッケー&アイスクロス情報新サイト代表>

 

今大会、間違いなく日本のカギを握る存在が、平野裕志朗選手(以下敬称略)だ。

 

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平野裕志朗選手。ビエルマキ合宿にて

 

日本を飛び出し、アメリカでプロとして戦っている平野だが、4月15日(現地)の試合でAHLスクラントン・ペンギンズにて初出場。その試合で平野がシュートしたパックのリバウンドをチームメイトが決め、AHLデビュー即アシストを決めるという“快挙”を成し遂げた。

この試合は、同チームのシーズン最終戦。ここでAHLに呼ばれたということは、来季を見据えて「この選手は次のシーズン使えるのか」とコーチ陣が見極める状況にあった、ということだ。

平野自身「思い切ってトライした。デビュー戦でただ出ました、というのとポイントを挙げるというのはまったく違うと前日の夜からずっと考えていたので、結果で残せたのは大きいと思っています」と頷く。

 

アメリカのプロリーグは皆さんご存じのNHLを筆頭に、その下にAHL(2部相当)、ECHL(3部相当)のリーグがピラミッドのように構成されている。

平野は来季のAHL、ECHLでの活躍しだいでは、GKの福藤豊ロサンゼルス・キングス)以来2人目、FWでは日本人初となるNHLへの昇格も十分に狙える位置まで駆け上ってきた。

 

実は、私は2016年にアメリカのジュニアリーグECHLヤングスタウン・ファントムズに所属する平野を追いかけて現地でインタビューに応じてもらったこともあるし、その後アジアリーグ東北フリーブレイズでプレーする彼のプレーも見てきたが……。

 

今回久しぶりに見る平野裕志朗は、間違いなくスケールアップしていた。

高卒当時でもひときわ大きかった身体が、さらに一回り大きくなっていると感じたのは当たり前。プロ選手としての風格と落ち着きを備え、そしてチームを俺が引っ張るんだというリーダーシップのようなものを感じさせられた。

精神面でも相当に磨き上げられていると一目で感じたのだ。

 

今回、世界選手権を前に、ビエルマキで単独インタビューに応じてくれた平野裕志朗。

いま、日本アイスホッケー界が最も注目すべき男の肉声をお届けする。

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――まずはAHL出場おめでとう

平野:有難うございます。

 

――今回AHLに出場を果たしてから、日本代表に合流しましたが今の心境は?

平野:AHLプレイヤーになったことで、(代表の)チームメイトから見られている視線も変わってきている。氷上でもそれ以外でも日本のトップ選手である自覚を持たなければならないと強く思っています。

初めて代表に参加したときと比べて、自分の存在は違うものになったと思っているので、どうチームに良い影響を僕が与えられるか、という点も大きくなると思っています。

 

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「彼が点を取れば流れに乗る(岩本監督)」。大きな役割を持って代表を背負う

日本代表に選ばれた“誇りと責任感”はもちろん持っています。

その上で僕は良い意味で『代表に選ばれるのが当たり前』だと言わなければ。

そう思ってなければ、日本を代表する資格はない。選んでいただいたことに感謝の心を持つことは当然ですが『このチームに自分がいなければ日本は勝てない』、という強い心がなければここで戦う資格はない、と思っています。

この代表では1点でも多く点を取って、ディフェンスにも声を掛けて、チームを引っ張っていける存在にならないとダメだと思っています。


――大会ではどんなプレーを見せたい?

平野:出せるものは全部出したい。身体を張ったブロックショットだったり、決めるべき所では必ず得点を決める。レイジーな(サボった)プレーは絶対にしない。

対戦相手もチームメイトも監督・コーチも、そしてスタンドのファンにも『コイツは違うな』というプレーを見せて、大会を支配したいと思います。

 

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ウクライナ戦勝利後には海外メディアのインタビューが殺到

――アジアリーグ東北フリーブレイズから単身でスウェーデン4部のチーム、カルマルに移籍してそこからアメリカに渡りNHLも目の前、という所まで来た。

日本を再び飛び出すには相当な勇気だったと思うが?

 

平野:一言だけ、僕が言えることといえば『俺でも出来るんだから、不安なんかあったとしても1度飛び出しちゃえば大丈夫だ』ということです。

どういう形でも日本を出なければ、自分を高める経験に出会えないと思ったから、僕はあのタイミングで日本を出ました。

その後2カ月ほどチームが決まらず、今季はもうプレーできないんじゃないかと不安に思う日々も正直言ってありました。

でもその後、ジュニア時代に一緒にプレーしたスウェーデン人の友人がカルマルのチームと繋いでくれて、コーチもUSHL時代のスタッツを見てぜひウチで戦ってくれ、と。

ドイツの2部など他の選択肢も探しましたが、時期的に難しくスウェーデン4部のチームに所属する選択になりました。

ただ、スウェーデンは4部でも100を超えるチームがあるなかで、僕が行ってチームを優勝させることができたのは大きかったと思います。

小さな街でも、リンクは毎試合満員で。そんなホッケー大国でプロとしての経験を積めたのは本当に大きかったと思います。

 

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合宿中筋トレでの1シーン。練習ではこんな笑顔も多かった

――スウェーデンで学んだことは?

平野:4部ですから、チームメイトのなかには小遣い稼ぎでプロをやっている選手もいるし、仕事と兼業でやっている選手もいる。そんななか自分は『絶対に上のリーグに行く。必ずNHLまで上り詰める』という想いを持っていたので、しっかりした目標を心に据えて周りに流されずにプロとしてプレーできたこと、そこは誇りを持って言えます。

試合後にウェイト室でトレーニングをしているのは僕しかいない、ということなんて日常茶飯事でした。『みんなやってないから僕も家に帰ろう』と思わずに、周囲に流されず夢のために自分を貫き通せたこと、これは大きな財産ですね。

 

――そこからアメリカに渡り、さらに大きく成長した。ECHLなど北米での経験は今どう活きている? 

平野:ECHLでの1シーズンを通して感じたのは、上(AHL,NHL)へ上がって行く道の広さが選手1人1人に見えているし、ライバルが何十万人もいるなかで自分がどう結果を出すのか……1プレー1プレーの比重が非常に重い。

だからこそ、ECHLの現場では考え方も努力の仕方も、そして選手達の発言内容に至っても全て“心に響くもの”が周りにたくさん落ちていた、と今は感じています。

 

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『僕はシューターだけであってはいけない』。北米で戦い抜くために進化を続けている


――具体的に「心に響いたもの」とは?

平野:僕が一番学んだのは『自分を捨てる』ということでした。

感情を抑えて、とにかくチームのために出来るプレーを徹底していく。

自分が大きく飛躍するために、一時の感情を捨てて一旦引いてから、大きく一歩を踏み出そう、と。

例えば、シュートタイミングを待つだけでなく、体勢が悪くても自分が打てるならどんどん打っていこうだとか、周りの選手を使っていくパスを散らして行くとか、ミスしてもそれを次のプレーに影響させないメンタルコントロールだとか、そういった部分を学んだと思います。

自分は『シューター』だけであってはいけない。

1つでも上のリーグに行きたい、と思うならば自らの武器を増やすこと。それが近道だと思います。

 

――やはり日本を飛び出したことが自分を変えるきっかけになった、と?

 平野:よくチームメイトに「アジアリーグはどうなんだい?」とも聞かれました。「アジアリーグもそんなに悪くないよ」とは本心から言っていたのですが、日本だけだとトップリーグでやっていても、アジアリーグで優勝、世界選手権で優勝しよう、代表に入ろう、という目標でその先がなかなか見つからない。

まだまだ上があってライバルがうようよしている、そんな世界で戦うことで自分がどう結果を出すかという、そこに対しての気持ちの強さとか準備……そこがアジアとの違いなのかなとも思います。

 

――来季はまた大きなチャレンジになる

平野:来年はフリーエージェントになるので、どのチームから声を掛けられてもOKな状況です。

まずはAHLチームとの契約になりますが、うまく行けばNHLのトレーニングキャンプに呼ばれる可能性もある。そこでも、どんどんトライしていき、チャンスをつかみ取って行きたいと思っています。

 

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今大会、日本の初戦となったウクライナ戦で、貴重な先制ゴールを奪ったのも平野だった。そのシュートは、速さだけでなく「重い」。GKが止めたかに見えたシュートの勢いが止まらず、パックはレガースの下にもぐり込んでゴールに滑り込んだ。

いっぽう、ルーマニア戦では執拗なマークに苦しんだ。

平野裕志朗が今後活躍することが、日本が優勝するための大きな力となる。

ぜひ、最高のパフォーマンスを続くエストニア戦以降も披露してほしい。

 

 

最後に、日本のファンに向けて平野選手からのメッセージを伺った。

<ファンへのメッセージ by 平野裕志朗選手> 

日本のアイスホッケーはいろいろなことがありましたが、みんなが動き出して良い方向に変わってきてはいる状況になっています。でもこれがいつ崩れるか分からないことは確かです。(チームが存続したり、リーグが続いて)良かったね、とだけ言ってはいられない状況です。

アイスホッケーに関係している以上、選手・スタッフ、関係者、そしてファンの方々も含めて僕は1つのチームだと思っています。その1人1人が『日本を変えていく』という思いを持つことが力になるんです。ファンの方にはそういう想いで応援していただけるととても嬉しいです。

僕らが結果を出すと言うことも大前提ですが、そういった皆さんの想いを受け止めて、日本のなかでもアイスホッケーをビッグに広げていきたいと思っています。

みんなでいっしょに頑張って行きたい、皆さんの想いを受け止めて頑張って行きます。