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クレインズ、北の地で力尽く。サハリンがアジア初制覇。~3/14アジアリーグ・プレーオフファイナル第3戦レポート②

3/14アジアリーグプレーオフファイナル第3戦レポート②

Text&Photo by 関谷智紀

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1点を守り切るために…チームスタッフも全力を尽くしたが

 

サハリン 4(0-0、0-2、3-1、OVT1-0)3 クレインズ

 

第3戦レポート①はコチラ

■暗転

重野のゴールが決まってからわずか21秒後、まだその余韻が残る中、サハリンが反撃の牙を剥いた。

ゴール裏での1対1の争いからパックを奪ったサハリンの97YUSHKOVが長いリーチを生かし、たった1人でGKも交わしてゴールを決める。

このゴールに総立ちで一気に沸くサハリンの観客達。Queenの『We Will Rock You』が大音響で流され、彼らをあおり立てる。

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この1点で空気が変わった

比較的静かだったリンクの雰囲気が一転。このゴールでゲームの主導権はオセロを裏返すように、一気に変わった。 

地元観衆の「サハリン!」という大きな声に後押しされたかのように、動きの切れ味をサハリンの選手達が取り戻した。

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1点を奪われ、徐々にサハリンのプレッシャーの度合いが増してきた

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マッキンタイアの堅守で、なんとか相手の攻撃を止めてはいたが…

自陣ゴール裏でパックを持ち攻めを組み立てようとするクレインズの選手に強烈なチェックを仕掛ける。時には2人がかりで1人の選手にラッシュをかけるリスクも負って、サハリンは得点を奪いに来た。

サハリンの2点目は、そんなフィジカルなプレーから力ずくで奪い取ったものだった。ゴール左側のコーナーでクレインズ選手に2人がかりでプレッシャーをかけパックを奪うと、左フェイスオフスポット付近にいたFW17KOVALEVがワンタイムでシュート。パックはGK1マッキンタイアの左脇腹すれすれを抜けてネットに突き刺さり、これでいよいよ1点差となる。

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サハリン追撃の2点目。シュートの正確さも彼らの武器だった

残り時間は、8分16秒。この8分をクレインズはしのげるか否か。そこに勝負の全てが掛かってきた。

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1点を死守するため、奪うため。ゴール前は激しいバトルの場となった

■残り1分36秒。6人攻撃のギャンブル。賭けに出たサハリン

シュートの雨を降らせるサハリン。それを耐え抜くクレインズ。選手の意地と意地がぶつかり合う展開が続く中、試合時間残り2分のアナウンスが流れた直後にサハリンの選手がゴール-に突っ込みゴールが動いて試合が止まり、サハリンがタイムアウト

この時点で残りは1分36秒。GKを上げての6人攻撃に同点への望みをかけるサハリン。

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サハリンがタイムアウト。攻撃のシステムを確認する

強烈なシュートを正面から2発。右サイドから1発サハリンが放ってきたがマッキンタイアが止めて、パックをフリーズ。これで残り1分17秒。

クレインズは丁寧に丁寧にサハリンの攻撃に対応し、少しずつでも時計を進めたい。

 

続くフェイスオフ。サハリンがキープして、パックをゴール左側のコーナーへ流す。いったんブルーラインにパックを動かしてから、左サイドのFW55 ZATSEPILINへ。左45度から55が狙ったシュートのライン上には梁取がしっかり身体を入れていたが、パックは梁取の足に当たってから、ふらふらっとゴールの正面へ流れた。そのパックをFW91 SURSOVがシュート。氷の上を滑るように走ったパックは、GKから見て右のポストに当たり、無情にも内側へ向けて弾かれた。

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ゴールポストに当たったパックはほぼ真横に跳ねたが、赤いラインを超えた


残り56秒でのこのゴールで3-3。まさかの展開に狂喜乱舞するサハリンの選手達。これで第3戦はオーバータイムでのサドンデスに持ち込まれた。

 

■極限のプレッシャーのなかで

迎えたオーバータイム。

点を取られたらそこで終わり、という状況のなかで、クレインズの選手達はとにかくひたむきにパックを追った。

この試合に勝って、週末に決戦に持ち込みたい。勢いを増すサハリンの攻撃をとにかく止めて、反撃のチャンスをうかがいたい。

サハリンのシュートを必死の形相で止め、とにかくパックを自陣から遠くへ運ぶ。

そうやって耐えているウチに、わずかにではあるがサハリンから流れを奪い返していくクレインズ。15分を過ぎてからは相手ゾーンに攻め込む機会も増えていき、動きの良さは時間が経つにつれて相手を上回るようになってきたように見える。

第1オーバータイムの20分を耐え抜く、それがクレインズ勝利への1つのキーになると考えられたのだが……。

 

■79分11秒の戦いの末に

あまりに突然に、終焉はやってきた。

 

オーバータイムも残り1分を切り、サハリンが猛攻を仕掛ける。

 

2度、3度とシュートがクレインズゴールを襲う。ゴール前には壁を築くかのようにクレインズDFが立ちはだかり、シュートに食らいつく。GKマッキンタイアは、スティックを駆使してパックを大きくサイドへ払いのけようとする。しかし、混戦の中、パックはDFの体に当たり、ゴール左サイドにこぼれた。

そのパックを55ZATSEPELINが拾い、振り向きざまにGKから見て左側の隙間を狙って鋭いシュートを放った。

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その刹那、地鳴りを思わせるような歓声の波、そしてサイレンの音がリンクに響き渡り、白いユニフォームの選手達はゆっくりとリンクの上にヒザを落とした。ゲームクロックは残り0:49秒を示していた。

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決勝点の直後

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■ヨーロッパの洗練とアジアの粘りをミックスさせ、頂点を掴んだサハリン

ロシア・サハリン州政府の後押しも受けて2013年に誕生したサハリンは、アジアリーグ参戦5シーズン目にして初優勝を遂げた。ロシア勢のアジアリーグ優勝も初となる。

アジアリーグの中でも異質な、パスで細かく繋ぎ得点を奪うホッケーを見せたサハリン。

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「ロシア!」コールと、「サハリン!」コールが会場に響き渡った

ロシア国内では東の端にあるチームでありながら、さすがに五輪で金メダルを何度も獲ったロシアのチームらしく、ヨーロッパらしさを見せながらも体格の良さを生かしたパワーで押すホッケーも見せるなど、このリーグでアジアの戦い方も学んでついに頂点に立った。

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今季のアジアリーグで優勝するにふさわしい実力を見せていたチームだと、チャンピオンチームに敬意を表したい。

1402人が詰めかけたこの日のリンクの雰囲気は、まさにヨーロッパのそれだった。

■最後の瞬間まで戦い抜いた、日本製紙クレインズ

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いっぽう、この完全アウエーの雰囲気のなか、ギリギリまで相手を追い詰めたクレインズの戦いぶりも素晴らしかった。

この第3戦に関しては、ここまで後手に回っていた攻撃の組み立ても改善されていたし、ディフェンスも選手同士が連携して大きな破綻はないように作り上げられていた。

しかしながら、ゴール裏にいるクレインズの選手に対して、大柄な選手が次々と体をぶつけてプレッシャーをかけることによって、徐々にその城壁を崩していったのがサハリンの攻め方だった。

それでもクレインズは耐えに耐えぬいていたが、6人攻撃でのパックの跳ね方には運が味方してくれなかった。

願わくば今週末まで。せめてあと20分、魂のこもった彼らの姿を見続けていたかったが、それはかなわなかった。

 

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プレーオフ、我々でなければこういう試合はできなかったと思っているので……。どのチームに対しても良い試合ができましたし。そこは選手達が頑張ってくれたと本当に思います。誇りに思います」。

小林弘明監督は試合後そう語った。

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報道陣に囲まれながら、試合を振り返る小林監督

例年とはまったく違うプレッシャーを背負いながらも、心の底から勝利を求め、プライドをかけて戦ったクレインズのメンバーに大きな敬意と、感謝の思いを送りたい。

 

2018-19シーズンのアジアリーグは、1つの勝利に向けて戦う男たちの意地と誇りがぶつかり合って結晶となったような、最高の戦いで幕を閉じた。

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参戦5年目で初優勝。ハルラ、クレインズを相手に6勝1敗でプレーオフも盤石の強さだった