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日本製紙クレインズを東京から応援~えのきどいちろうさん、バックス元監督村井さんの呼びかけにファンが集結

 3/10【日】「がんばろう!ニッポンアイスホッケー 日本製紙クレインズ支援ゲームビューイング」(:Garage AKIHABARA)レポート

Text by 沢田聡子
3/15追記:

■アイスホッケーが社会に近づく一歩

3月10日、今季限りでの廃部が決まっている日本製紙クレインズが、釧路で最後のホームゲームとなるプレーオフファイナル第2戦を闘った。日本製紙アイスアリーナを埋め尽くした3011人のファンが氷上に熱い視線を送ったが、クレインズを見守る視線は東京からも注がれていた。

 

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イベントのポスター~準備は急だったが多くのファンが秋葉原に集まった。

 

 

「がんばろう!ニッポンアイスホッケー 日本製紙クレインズ支援ゲームビューイング」が行われる秋葉原のイベントスペース。開場の30分前には、既に入り口の前で並ぶファンの姿があった。イベントを主催する株式会社アスリートスタンダードの代表取締役社長であり、元日光アイスバックス監督の村井忠寛氏は、会場内で準備に追われていた。

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イベントの模様

 

■20年前と変わったもの、変わらないもの

村井氏が1998年に選手として入社した古河電工は、98-99シーズンを最後に廃部している。

「あっさり自分の意志と関係ないところで物事が決まっていくことは、過去20年間、いろいろなことを試しても変えられなかったとすごく感じています。その状況を変えるため、今回このイベントを企画しました」(村井氏)
※3/15追記:上記村井さんのコメントを一部追加訂正しました。

企業チーム・古河電工から日本唯一のクラブチーム・日光アイスバックスへの移行期を選手として経験し、その後監督としてアイスバックスを率いた村井氏に、クラブチームを目指すクレインズについて聞くと「個々のチームの問題ではないと思っている」という答えが返ってきた。

「我々は、どういうところでポジションを確立しなければいけないのか。そもそも日本のホッケーというものが、確立されないと駄目な時期に来ているんじゃないかな」

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村井忠寛さん

 

 

イベント開催の動機について「日本のホッケーをなんとかしたい、クレインズの支援をしたいという思い、それが入り口ではあります」と語った村井氏だが、本当の目的はもっと大きいところにあるという。

「真の目的は、スポーツという共通言語の下でここに集まる人達がいろいろなつながりを持つこと。例えば札幌からきた方が『札幌でもこういうイベントをやってみたい』と言った時、その地域でまたつながる人達が増えると思っているんですよね。コミュニティを少しずつ派生していきたい、というのがゴールとしてある。ホッケーが、もっともっと社会に近づく一歩だと思っています」

昨年25周年を迎えたJリーグは、『未来共創「Jリーグをつかおう!」』と題してワークショップを開催している。村井氏の頭にあったのは、多様な分野から人が集まり「Jリーグを使って何ができるか」を議論したこのワークショップだ。

 

「もっと社会の課題の解決としてアイスホッケーを使ってみてはどうですか、という位置づけにしていくと、より価値のあるスポーツになるんじゃないか」

試合が始まる前に村井氏が行った「隣の人と話してみてください」という呼びかけは、アイスホッケーの社会における立ち位置を確立するためのものなのだ。

 
■「ここで頑張らないでどうする」

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会場でアイスホッケーを熱く語る、えのきどいちろうさん

 

この日MCを務めたコラムニストのえのきどいちろう氏は、アイスバックスの運営会社で無給の取締役に就いていたこともあり、苦しい時代のアイスバックスに深く関わっている。現在もひんぱんに霧降アイスアリーナに足を運んでいるえのきど氏は、「アイスホッケーに公共性を持たせたい」という思いでこのイベントに関わっていた。

 

フィギュアスケートなどと較べて、ホッケーはメジャーな話題にならない。クレインズの廃部って、多分プロ野球でいえば“阪神身売り”とか“西武廃部”ぐらいのインパクトがある話なんだけど、ファンが誰にも言えなくて、もんもんとしていると思うんですよ。僕が放送媒体に出たり、コラムを書いたりしているのは、なるべく公共性を持たせて、みんなの話題にしたいから。今日は『みんなでファイナルの応援をしたい』というのが一番の動機なんだけど、その他にも、ホッケーのチームがある日光・釧路・八戸とかではなく東京でそういうイベントができたら、という思いもある」

 

■「お手本は世界中にある」えのきどさんが語ってくれた“可能性” 

クラブチーム経営の難しさを身を以て知るえのきど氏は、クレインズについて「でも頑張るしかない」と語る。

「今、北海道のメディアなどで“日光方式”みたいな言い方をしているんですけど、アイスバックスは別に日光の土地に根ざした特殊なやり方をしたわけではなく、単なるクラブチーム。“日光方式”と言っていること自体“他に例がない”という意味だから、状況の貧しさを語っていると思うんですよ。バックスがお手本なんじゃなくて、世界中にお手本がある。むしろそっちの方が、本当はスタンダード。スポーツクラブが学校や会社にくっついている、という日本の状況の方がある種特殊なような気がする。だから苦労もあるかもしれないけどやりがいもあることで、すごく可能性はあると思うんですよね」

野球・サッカーなど幅広い競技のチームを見続けるえのきど氏ならではの視点だろう。小学生の頃釧路に住んでいたえのきど氏は、校庭に作ったスケートリンクでのスケート運動会を経験している。釧路という街には「ウインタースポーツの土壌がある」と感じているえのきど氏にとり、そこにアイスホッケーのクラブチームができるのは「すごく自然なこと」なのだ。

 

レギュラーリーグ4位のクレインズは、プレーオフ(レギュラーリーグ5位までが進出)で勝ち上がるごとに勢いを増しているように見える。えのきど氏は、その闘いぶりをどのように見ているのだろう。

「選手は、本当に特殊な心理状態で闘っていると思うんですよね。廃部ということがあるので幸せとは言い切れないけど、プレーヤーが“しびれる”状況でやれるのは、すごく素晴らしいこと。『ここで頑張らないでどうする』という空気、一生に一度味わえるかどうかみたいなことになっていると思う。それを今日、応援ビューイングで見届けたい」

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「今」をきっかけに多くのアイスホッケーファンの熱意を各地から届ける

 

 

会場の受付に置かれていたクレインズ存続のための署名用紙は客席を何周もしており、続々と署名が集まる中、試合が始まった。1敗して迎えたファイナル第2戦、クレインズの立ち上がりは上々だった。先制されて追いつき、2点目を許してまた追いつき、満員の観客に応える闘いぶりを見せたものの、第3ピリオド終盤に三度勝ち越される。6人攻撃で最後まで勝利を目指したが、無人のゴールに2得点を許し、2-5で敗れた。もう負けることができなくなったクレインズだが、「ここで頑張らないでどうする」という声は、東京からも彼らの背中を押している。

 

編者より:
「何かしなければいけない」という思いから村井さんはこのイベントを企画したという。準備期間は数日。そんな状況のなか、えのきどさんが忙しいスケジュールの合間をぬって参加。会場の雰囲気も、クレインズの得点では大いに盛り上がり、最後の6人攻撃では悲鳴にも似た声があがるなど、非常に熱がこもっていたという。
確かに、廃部報道などで日本のアイスホッケーにとってマイナスの情報が世の中に出ている状況でもあるが、そんななか小さくても良いから色々な形で声を上げ、このスポーツへの「想い」を届けていくことはきっと必要なことだ、と考えるのは我々も一緒だ。

 

もうまもなくファイナル第3戦が始まるが、パブリックビューイングが釧路の日本製紙アイスアリーナで行われており、多くのファンが集まっていることだろう。

これからもこういったイベントが全国各地で立ち上がっていけば、また新たな可能性の芽を見つけられるのかもしれない。