必要なのは「少しの勇気」。学びの多かった敗戦~チェコ戦レポート
IIHF女子アイスホッケーU-18世界選手権
ゲームレポート 1/7
日本⓪ 2 (0-1、1-2、1-1) 4 チェコ③
シュート数:日本31 チェコ26 ※丸数字は勝ち点
ミスから流れを与えて連敗を喫す
大会初白星を目指して、チェコに挑んだ日本。しかし残念ながら、自ら崩れる形で試合の主導権をチェコに与えてしまい、前日のフィンランド戦に続き2連敗という結果になってしまった。得点力では分が悪い日本はやはり持ち前の運動量を生かした守りからロースコアの展開に持ち込みたかったが、喫した4失点のうちミスからの失点が3つ。
しかし、そのミスの要因をひもとくと、彼女たちが今後強くなるために必要な部分が見えてきた。その点では、意義のある敗戦だったと思いたい。
その部分とは、相手のチェックにも負けない体幹の強さと、ゴール前で相手にスティックをねじ込まれてもしっかり思い通りにパックをコントロールできる上半身の強さ。またボード際での1対1のバトルに勝てる技術といったフィジカル面の強化だ。
チェコの選手と日本の選手がゴール前に揃うとその体格差ははっきりしていた。
スピードは日本ほどないものの、パワーとフィジカルに長じたチェコの選手をどうやって抑えるかが1つの注目点だったが、この試合に限って言えば攻守とも納得いく出来ではなかったように思える。
プレッシャーの速さと強さ。身をもって感じた「世界」
日本が喫した最初の失点は、第1ピリオド8分43秒。
状況的には日本のディフェンス(DF)が攻めの形を作り直すために自陣方向へ戻りながらのパックをキープしている形だった。その時一瞬DF2人のコンビネーションが乱れ、どちらがパックを運ぶのか譲り合ったような形に。そこを狙ってチェコの15番MLYNKOVA,Natalieが猛然と突っ込んできた。そこでDFとのパック争いとなるが、チェコ15番に身体を入れられパックを奪われてしまう。その位置がゴール正面だったため、日本のGK1佐々木玲果も反応したもののゴール右サイドががらりと空いていたため、なす術はなかった。
さらに言うと、元はといえばこのシチュエーションを招いたのは、日本がチェコから自陣でパックを奪い、縦に攻めようとパスを出したところの精度が悪くてチェコ選手にニュートラルゾーンでパックをカットされた事が要因だった。
世界を相手にした戦いでは、一瞬の躊躇や判断ミス、精度の悪いパスが致命的なピンチを招くことに繋がってしまう。それを身をもって知ったことは、将来に向けての成長に繋がる貴重な経験だろう。
また、ボード際で相手と競るときの自分の位置、相手に身体を向ける方向、スティックの出し方1つでパックを守り切れるかそうでないかが大きく違うと言うこともこの試合で悔しい思いをしながら、各選手は学んでいったと信じたい。
フィジカルで勝る相手にどう対応するか、という課題
1度は同点に追いついて、さあこれから! という時に失点したのも自陣コーナー付近でのフィジカルのバトルに勝てずにパックを奪われてしまったのが大きな原因だ。それほど、チェコのFWは大きくて力強かったし、また常にフォアチェックを掛ける事を意識して「隙あらばパックを奪ってやろう」という気持ちに満ちていた。その気迫に知らず知らず押されてしまったのも劣勢を招いた要因の一つでは無いかと思う。
さらには体力的に優位にある相手に対して、ディフェンディングゾーンで攻められる時間が長くなってしまったのも反省点だ。
飯塚祐司監督は「アイシング覚悟でクリアしたくても、相手のプレッシャーによって自由にプレーできず追い詰められて、クリアがバックハンド側になってしまい、パックに勢いが付かずそれを拾われてまた攻められる、といった時間が続いてしまった」と試合後に語ってくれたが、そのあたりの反省点を将来に生かしてくれれば良いのではないかと今は思っている。
スマイルジャパンが五輪に連続して出ることで、日本の女子選手のレベルが底上げされてきたのは間違いない。ピョンチャン五輪の予選では、最後まで走りきれる体力と大柄な相手にぶつかってもびくともしない強靱な体幹を武器に同組の相手を圧倒できたのがスマイルジャパンの先輩達だった。
しかし今、ヨーロッパの各国もそこに着目して体力強化に努めてきたゆえに、日本のアドバンテージは少なくなっている。特に育成年代であるU-18ではまだ身体がフル代表のレベルまでには出来上がっていないし、同学年でもヨーロッパや北米選手の方が体格が良いのは、受け入れなければいけない現実だとも言える。
体力強化と戦術理解はどちらかに重きを置けばその分どちらかの練習量が少なくなるため、同年齢での体格面でのハンデがある日本にとっては悩ましい問題だが、これはスタッフが知見を集めて最適なバランスを見つけるほかはない。そういった所も世界大会のトップディビジョンに出続けることで見えてきたこと。挑戦はぜひ継続していって欲しいものだ。
チャンスを多く作ったパワープレー。攻撃は徐々に向上中
厳しい意見ばかりここまで書いてしまい申し訳なかったが、日本がこの試合で見せたポジティブな部分もぜひ紹介したい。
0-1から一時は同点に追いつくゴールを決めたのはパワープレーからだった。
アタッキングゾーン内でリズム良くパスを回して相手DFを翻弄すると、最後は左サイドの19志賀紅音からゴール正面にいた13鈴木花歩へワンタイマーでの完璧なパス。それを受けた鈴木がスティックを一閃。見事にゴール右隅に決めて見せた。
「練習通り行って良かったです。スクリーンに1人味方が入ってくれていたので、ハイショットで上手く狙うことができました(鈴木)」
それ以外でもパワープレーでは練習で培ってきた多彩な攻撃パターンを日本は次々と披露し、何度も得点チャンスを演出した。最後の最後でチェコの必死の守りに防がれてしまったが、「自分のイメージ通りにシュートするために、普段の練習からどの位置にパックを置けば良いかを考えていきたい(志賀)」
というように、工夫をすればまだまだ得点力は上がるはず。
そのあたりを修正できれば、1月9日のスイス戦では複数のゴールが期待できるだろう。
きっと必要なのは、少しの勇気だ
大事な初戦のフィンランド戦で敗れたこともあってか、選手達は「失敗したくない、より慎重に行こう」という方向に心のベクトルが向くのは自然なことだ。でも日本はディビジョンIから昇格してきたチャレンジャーということを思い出しても良いのではないだろうか。
パワープレーの時などに、打てるチャンスがあればどんどん積極的にシュートを狙っていって欲しい。そのほんのちょっとの勇気がチームに流れを呼び込むことも往々にしてある。
日本の追撃となる2点目は、角度のないところから14佐々木愛実が積極的に打っていったもの。一度は相手DFにカットされた、そのリバウンドを間髪入れずまた叩く。そのシュートタイミングが相手GKのリズムを狂わせて、パックが両脚の間をするするっと抜けて入ったゴールだった。これも、スキがあれば打つという気持ちが呼び込んだ得点だと思う。
決勝トーナメント進出の可能性は残った
明日1/8は休息日。その休みを有効に使って、心身共にリフレッシュしてスイスとの戦いに臨んで欲しい。
幸いにも次のスイス戦に3点差を付けて勝てば、決勝トーナメントに進出できるグループ2位のチャンスは残っている。
飯塚祐司日本代表監督の試合後コメント
守り切れなかったですね。パワープレーは良い形ができていたが、最後決めきるところまでいかなかったのもターニングポイント。相手は攻撃能力こそ高いが、スタミナ面に長けているチームではないので、序盤に良いスタートをできれば勝機はあると思っていたが……。
中盤以降、日本がスケーティングで勝り始めてから得点も入るようになったが、チェコのサイズ(体格)を生かしたパワーホッケーに対して守り切れなかった。ディフェンスゾーンではボードにあまり近づかないで守るように言っていたが、守りが続いてメンタルのスタミナがなくなってくると、無理してパックを取りに行き相手にくるりと反転されて交わされる、といった部分が出てしまった。
1日休みになるので、守りをもう一度修正してスイス戦に臨みたい。
チェコZUZIAKU,Pavelヘッドコーチの試合後コメント
日本は守りが良かったが、その相手から4点も取れたのはとても嬉しい。過去にこのチームで日本と3回対戦して初めて勝てたのも嬉しく思う。15番のMLYNKOVAは非常に良いプレイヤーだ。このU-18の大会は3度目だが、しっかり落ち着いてプレーしてくれ、2ゴールを決めてくれた。今後も期待したい。
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グループB
フィンランド⑥ 4(0-0,2-0,2-2)2 スイス③
チェコを相手にGKをはじめとする堅い守りで昨日は1-0の勝利を挙げたスイスだが、この日は劣勢に。第2ピリオドはシュートを1本も打たせてもらえず2失点。勝負はほぼほぼフィンランドのものかと思い始めた第3ピリオド中盤、スイスは個人技とDFからの強烈なシュートであっという間に同点に追いつく。これには、はるばるスイスからやってきたサポーターも大興奮していた。しかし、フィンランドは慌てずにしっかり攻めの形を作り、GKを完全に崩しての2点を立て続けに挙げて勝利。スイスは2日続けてのアップセットとはならなかった。
スイスは守りこそ固いが得点力はグループ内でも下位に近い印象。日本は相手を最少失点に抑えつつ、守りからのカウンターやパワープレーで得点を重ねられれば逆転でのグループ2位以上も視野に入ってくる。
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グループA
アメリカ⑥ 3-2 カナダ③
ロシア③ 5-3 スウェーデン⓪
※丸数字は勝ち点